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コラム 2022.12.14

パブリックコメント

はじめに、後述の「第1」で与えられた関連資料から、なぜ家族法制の見直しが必要となったのか目的を把握した上で、その目的が果たされているか「第2」で中間試案の内容に意見を述べる。

第1 家族法制の見直しに関する中間試案の補足説明1頁

1 同「1 調査審議の開始の経緯」について

(1)上記経緯によると、家族法制部会の設置の経緯は「 未成年の子を持つ父母の離婚に伴う子の養育の在り方については、父母の離婚を経験した子の置かれている状況、子育ての在り方やそれに関する国民意識の多様化、社会の各分野における女性の一層の参画といった社会情勢、あるいは子に関わる近時の立法の動向や児童の権利に関する条約の批准後の状況等を背景に、国内外から様々な指摘がされており、例えば、・・・」という例示列挙の記述から、家族法制部会の設置及び離婚後の親権制度を検討したと述べられている。
まず、国内外からの指摘とは何なのか、家族法制部会の設置・検討目的を端的に分かりやすく明示しなければ、一体何を議論し解決したいのか、国民に分かりづらく、今回の中間試案における選択肢の中で何が適切であり、かつ、どこに不備があるか国民は指摘できない。
そこで上記下線部の国内外の指摘として、例示列挙された中に、度々、マスメディアで報じられ、既に日本国民に共有された問題として、養育費の未払いの他に、一方の親が無断で子を連れ出して別居したことにより、子どもとの暮らしが奪われてしまった親子断絶の問題があるが、その親子の断絶防止については全く触れられていない。
昨今、日本国及び諸外国のマスメディアで、日本では、別居により、唐突に子どもとの暮らしが奪われてしまっていることが再三報道されており、日本国民及び諸外国(とりわけ先進国)では、日本人配偶者によって、他の配偶者(日本人配偶者を含めた)と子どもとの暮らしの断絶が容認されていることが再三指摘されている。

(2)子どもの連れ去り防止は刑法の分野で解決されない。なぜなら、子どもの連れ去り動機は、真にDV・虐待事案を除き、主に監護権獲得という民事上の利益が動機の出発点となっているからである。
したがって、一度は、別居により子どもとの暮らしが奪われた後でも、真に虐待及びDV事案でない限り、家族法において、子どもとの暮らしの共有(分かち合い)が実現されなくては、今後も子どもの連れ去りの動機を払拭できない。
また、刑事法分野での解決は行き過ぎ、かつ不十分なものになるおそれがある。
つまり、子どもを奪ったから、その親を刑法等で処罰して、その親から子どもを奪い取るのではなく、虐待・DV事案ではなく、子どもとの暮らしを不当に奪った一方配偶者であったとしても、子どもにとってはかけがえのない唯一の親である以上、子どもとの暮らしを分かち合うことを同居親に容認させる制度案を作らなければならないのである。

(3) なお、子どもとの暮らしの断絶を生む別居行為は、父母間の高葛藤により生じるのが通常であるから、高葛藤を理由に、子どもとの暮らしの分かち合いが制限されてはならない。
また、子どもとの暮らしの断絶を回復する措置を模索するべきであるから、面会交流「権」は別途規定すべきであり、子どもとの暮らしの分かち合いである共同監護と現状の日本国内における面会交流制度を決して混同してはならない。

(4) 以上述べた通り、中間試案作成の目的として、父母間に高葛藤があろうが、養育費の支払いの促進とともに、DVかつ虐待事案でない場合の別居・離婚事案における「子どもとの暮らし」の分かち合いが目的に入っているのか、いないのかを明確に謳うべきである。
なぜなら、既に日本国民には、再三にわたるマスメディア報道で、①養育費の未払い問題の他に「子どもに会えない親」「親に会えない子」に関する問題が共有され、②別居・離婚による子どもと別居親との暮らしの断絶にどう対処するのか、そして、その対処法は③子どもへの虐待及び他方の配偶者へのDV被害の防止を両立させていくことが主要命題であることを認識しているからである。
また、子ども視点で述べれば、法務省の令和3年3月に公表した「未成年時に親の別居・離婚を経験した子に対する調査」のQ13_2「あなたは、父母が別居をした当時、どのような気持ちでしたか?」との問いに、子どもであった当時、「悲しかった」「ショックだった」「怒りを感じた」「割り切れなかった」「自暴自棄になった」「将来に不安を感じた」「経済的に不安を感じた」「恥ずかしかった」と父母双方との暮らしを終了させる別居に否定的な意見が過半数を優に超えている。
このことから、父母双方との暮らしを終了させる別居は子どもの気持ちを明らかに不安定にさせている。
さらに、国際的視点で言えば、令和2年7月、EU議会においても、日本における子どもの連れ去りに関する決議において、日本が批准したハーグ条約の下での子どもの送還にかかる司法判決の執行率が低いと圧倒的多数で非難されている。

2 小結

よって、「家族法制の見直しに関する中間試案の補足説明」「「1 調査審議の開始の経緯」の「国内外からの様々な指摘」の中に養育費未払い問題に加えて、上記(4)②で記載した子どもとの暮らしが不当に奪われている問題があるものと大多数の国民が既に認識しているため、その点を踏まえて、以下、中間試案がこれを解決するものなのか内容に意見する。

 

第2「家族法制の見直しに関する中間試案」(以下「中間試案」という。)の問題点

1 中間試案の「第1 親子関係に関する基本的な規律の整理」「1 子の最善の利益の確保等」について

(1)同「(2)」「…(略)…現に子を監護する場合には、子の最善の利益を考慮しなければならないものとする」との記載について
「子の最善の利益」や「子の福祉」を図ることの重要性については、日本国民に誰一人異論はないと思料する。
議論すべきは、監護を含めた親子交流についての「子の利益」の観察方法にこそある。
監護を含めた親子交流についての「子の利益」の判断は、単に同居親のもとに家庭裁判所調査官が訪問し、聴取するという方法では、子どもは、同居親の顔色を窺い、配慮してしまうおそれがあり、これは未就学児童であっても同様である。
したがって、監護を含めた親子交流についての「子の利益」の観察方法は、虐待事案でない限り、同居親の支配圏外で、別居親との複数回にわたる親子交流中において、子どもの表情・態度等から観察されなくてはならない。
つまり、監護を含めた親子交流における「子の利益」については、その観察方法こそ議論すべきで、それ以外は言葉遊びとなる。

(2) 「2 子に対する父母の扶養義務」について
現在18歳が成人とされていることの整合性から、現状の裁判所の運用(20歳まで養育費の支払い義務があるとする)ではなく、原則18歳で養育費の支払いを終了し、例外として大学等在籍するなど教育を受けており、就労できない等の一定の要件がある場合に扶養義務を延長させる運用に統一すべきである。

2 「第2 父母の離婚後等の親権者に関する規律の見直し」

(1)「1 離婚の場合において父母双方を親権者とする可否」
上記第1(4)で述べた観点から、単独親権制度を維持する乙案では、子どもの奪い合いの動機付けを解消できない。そもそも乙案は、法務省自身が「家族法制の見直しに関する中間試案の補足説明」「1 調査審議の開始の経緯」で記載した調査動機となった問題を何ら解決しないため、採用しえない。

(2)「2 親権者の選択の要件」
上記第1(4)で述べた観点から、原則、単独親権制度とする甲②案では、父母が高葛藤を伴う場合、単独親権になりかねず、単独親権を勝ち取るための子どもの奪い合いが生じ、根本的な解決とならない。したがって、「家族法制の見直しに関する中間試案の補足説明」「1 調査審議の開始の経緯」で記載した調査動機となった問題を解決しないため、採用しえない。

(3)「3 離婚後の父母双方が親権を有する場合の親権の行使に関する規律」の「(1)監護者の定めの要否」について
ここでは、「B案」かつ「(注1)」の「①」を取らなければ、父母が高葛藤を伴う場合、上記第1(3)で述べた子どもから離婚後も父母双方と暮らしたいとする希望を親都合で奪い合うことになりかねず、その他の案では、上記第1で述べた、「国内外からの指摘」を解決できず、採用できない。
子ども視点でも、法務省の令和3年3月に公表した「未成年時に親の別居・離婚を経験した子に対する調査」のQ13_2によれば、圧倒的多数の子どもが、父母双方との暮らしを終了させる別居に否定的だからである。
※同調査からも明らかなように、監護における「子の最善の利益」とは同居親からの援助から自立した成人となって初めて、子どもは同居親への配慮をせずに本音を語るのであり、未成年期は監護に関する「子の利益」の観察方法は別居親との交流中の表情・態度等を観察しなくては読み取ることはできない。

(4)同「(1)監護者の定めの要否」において「B案」かつ「(注1)」の「①」を取った場合、法制度の不備について
虐待事案でない場合で、子どもの奪い合いが生じたとき、裁判所はいかなる審判を下すのか不明である。別居親が、子どもとの暮らしの共有を求める場合、「B案」「(注1)」の「①」では、申立ての根拠は、身上監護を含めた親権となるが、監護権者の定めをしない以上、裁判所は棄却とするのか、それとも「共同監護せよ」との主文になるのか明らかでない。
子ども視点で、父母が離婚しても、かけがえのない唯一の父親・母親との暮らしへの影響を最低限に抑えるためには、共同監護計画の作成を父母に義務付けなければならない。
虐待事案の場合は、そもそも例外的に単独親権・単独監護になることは言うまでもないが、そうでない場合は、アメリカ(アリゾナ州)のように共同監護計画の原則運用プランを複数用意する必要がある。
また、父母が高葛藤で離婚する場合、当分は、行政主導での子どもの受け渡し支援制度も用意しなくてはらない。特に証拠のないDV事案などは、子どもの受け渡し支援措置が必須となる。
以上から、「B案」かつ「(注1)」の「①」を取った場合、(ア)共同監護計画の作成を父母に義務付けること、(イ)具体的な共同監護計画の原則運用プランを複数用意することが必要となる。なお、どうしても主たる監護者が従たる監護者より遠方に引っ越す必要がある場合には、例えば大型連休中の監護について、大きく従たる監護者に譲る等、子どもから父親ないし母親との暮らしが損なわれることのないよう工夫が必要である。
加えて、父母が共同養育をする以上、経済的負担が一方に偏ることのないよう、(ウ)共同監護計画の原則運用プランごとに養育費の算定表も複数用意する必要がある。
なお、DVを子どもが目撃してしまった可能性がある等、虐待にまで発展する疑いがあるケースについては、複数回にわたる親子交流を第三者が観察し、子どもの表情・態度から、その真偽を確かめ、慎重に運用プランをあてはめるか、当面の間、充実した面会交流に留めていくか、判断していく必要がある。
再度付言するが、監護を含めた親子交流に関する「子の利益」の観察方法は、同居親を排した別居親との親子交流中の子どもの表情・態度から読み取らなければ正確に判断できない。

(5)「3 離婚後の父母双方が親権を有する場合の親権の行使に関する規律」の「(3)監護者の定めのない親権行使」の「ア」乃至「ウ」はシンプルで良い。
中間試案では、監護権者を定めた場合の親権行使のあり方について、様々な案を出し、複雑化しているが、「家族法制の見直しに関する中間試案の補足説明」「1 調査審議の開始の経緯」を読むと、調査審議の動機付けとして、身上監護を除いた財産上の法定代理権などの親権の共有を求める声が大きいとの記載もない。実際にマスコミの報道においても、子どもとの暮らしの共有を放棄して、財産上の法定代理権のみ望む声は聞こえてこない。にもかかわらず、中間試案において、身上監護を除いた親権をどのように分属させるかの議論の分量が目立ち過ぎ、審議の動機付けとなった社会情勢を見失っている。